ロードバイクの適正ケイデンス、過去にはどのぐらいのケイデンスが良いのかと考えたこともありました。
また昔からよく言われてきたのが、「ケイデンスは90rpm前後が理想」という話です。

もちろん90rpmという数字そのものが合っている、間違っているという単純なお話ではありません。
実際、ロードバイクで走っていると90rpm前後になる場面は非常に多くあります。

ですが、少し考えてみると疑問もあります。

200Wで走るときも、300Wで走るときも、500Wでアタックするときも、本当に同じ90rpmが適正なのか、ということです。

さらに平地、登り、下り、向かい風など、ライド中にはさまざまな状況がありますが、これらすべての状況でも同じように90rpmが適正ケイデンスなのでしょうか。

私自身も以前はケイデンスを意識して走ることがありました。しかし時代は流れ、パワーメーターという機材が一般的になってきた現在では、私自身もパワーを指標にしたトレーニングが中心となり、ケイデンスに対する考え方は少しずつ変わってきました。

では、パワーメーターを使ってトレーニングを行う現在、「適正ケイデンス」はどのように考えればよいのでしょうか。

そこで今回は、研究データと私自身の実走データを見ながら、パワーという指標が身近になった現在の「適正ケイデンス」について考えてみたいと思います。

なお今回も、ガチガチのトレーニング勢だけのお話ではありません。
普段ロードバイクを楽しんでいる一般的なサイクリストにとっても、自分に合ったケイデンスを見つけるヒントになるような内容を目指していきます。

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▶そもそも「適正ケイデンス」とは

まず難しいのが、「適正」とは何を指しているのかということです。

例えば、
・酸素消費量が少なく、エネルギー効率が良い※
・筋肉への負担が少ない
・長時間維持しやすい
・高いパワーを出しやすい
・本人が最も自然に回せる
※酸素消費量とは、運動中に身体がどれだけ酸素を使っているかを示す指標です。同じパワーを出しているのであれば、酸素消費量が少ないほど、その出力を維持するために必要な身体のエネルギーコストが小さい、と考えることができます。

これらはすべて「適正ケイデンス」と呼べそうですが、実は同じものではありません。

全力をぶつけ合うレースの時、のんびりと走るサイクリングの時、長い時間を走り切るブルベの時。
さらに、きれいな路面、荒れた路面、滑りやすい路面など、走る状況もさまざまです。

目的や強度、走行環境まで違うのに、これらすべてで同じケイデンスが「適正」と考えるのも少し不思議に思います。



実際、経験のあるサイクリストが自然に選ぶケイデンスと、酸素消費量が最も少なくなるケイデンスが一致しないことは、以前から研究でも確認されています。

トレーニングされたサイクリストを対象に、自然に選択するケイデンスと酸素消費量から見たエコノミーなケイデンスを比較した研究では、75~250Wの条件で、サイクリストが自然に選んだケイデンスはおおむね90~100rpmでした。

ところが、酸素消費量が最も少なくなったケイデンスは53~60rpm程度でした。

つまり、「一番省エネなケイデンス=人間が自然に選ぶケイデンス」ではないということです。

この時点でも、「適正ケイデンスは○rpm」と一つの数字だけで決めること自体が難しいことが分かります。


▶適正ケイデンスは条件によって変わる

さらに重要なのが、同じ人でも、出力によって適したケイデンスが変わる可能性があるという点です。

100W、200W、300W、400Wという異なるパワーを、50~120rpmのさまざまなケイデンスで走り、「どのケイデンスで走ったときに脚の筋肉の働きが最も小さくなるのか」を調べた研究があります。

その結果、脚の筋肉の働きが最も小さくなったケイデンスは、
100W:約57rpm
200W:約70rpm
300W:約86rpm
400W:約99rpm
となりました。

つまり、出力が高くなるにつれて、脚の筋肉への負担が比較的小さくなるケイデンスも高くなっていった、という結果であり、同じ人であっても「適したケイデンス」が一つの固定された数字ではなく、出力によって変化しているという点です。

もちろんこれは、「300Wなら86rpmが正解」「400Wなら99rpmで走るべき」という意味ではありません。あくまでこの研究条件の中で、脚の筋肉の働きを基準にした場合の一つの結果です。


また別の研究でも、ペダリングの効率から見た最もエコノミーなケイデンスは、負荷が高くなるにつれて高回転側へ移る傾向が報告されています。

こうした結果を見ると、「100Wでも400Wでも90rpmが適正」と考えるよりも、出力が変われば、その出力を出しやすいケイデンスも変わると考える方が自然だと思われます。

では実際に、自分の場合はどうなっているのか。普段の走行データを確認してみました。


▶実際に自分のデータを調べてみた

私の場合、普段のインターバルトレーニングは、ケイデンスは特に気にせず、パワーを目標に行っています。

ざっくりとライドデータからケイデンス平均の傾向を見ると、
・低~中強度では90rpm前後、
・FTP付近になると95rpm前後、
・VO₂max以上の高強度では100rpm前後(400W前後)
・短時間のアタック等、さらに高強度では110rpmを超える(500W~)
という傾向が見られました。

走行条件等によっても若干変わりますが、概ねこのぐらいの数値で揃っていました。

しかし私自身、このケイデンスを狙って走っているわけではありません。
例えば310Wで3分走をするとき、「今日は95rpmで回そう」とは考えて踏んでいるわけではありません。
310Wで3分間維持しようとした結果、95~97rpm程度になっているということです。

これは高強度域でも同じです。
高いパワーを出そう、維持しようとすると、結果的にケイデンスも高くなっています。

私の場合、ケイデンスはある意味、「後から付いてくる数字」になっているようです。


▶違う条件でのケイデンスの変化

①実走と室内でのケイデンスの差
今回データを確認していて、少し意外だったこともありました。

久しぶりに室内トレーニングをしてみて、実走よりケイデンスが低くなると思っていたのですが、現在はそれほど大きな差がありませんでした。
例えば3分走では、実走で319~330W付近を96~97rpm、室内でも307~313W付近を95~97rpmと、かなり近い数字です。
また室内でも、500~600W台の短時間高強度になると110rpmを超えています。

ただし、私も以前から室内でこのようなケイデンスだったわけではありません。

数年前、室内トレーニングを中心に行っていた頃は、今よりもかなり低いケイデンスで走る傾向がありました。その後、実走中心のトレーニングへ変わり、勾配や路面状況、風など、さまざまな環境の中でも指定パワーを出すような走り方をするようになってからは、以前ほど低いケイデンスになることは少なくなりました。

現在では室内でインターバルを行っても、実走と比較的近いケイデンスで走るようになっているようです。

もちろん、これだけで「実走中心にしたことが原因でケイデンスが上がった」ということではありません。ただ、普段どのような状況で、どのくらいのパワーを出しているのかによって、身体が自然に選ぶケイデンスも変化していく可能性はあるのではないかと考えています。

実際、高ケイデンスのインターバルトレーニングを6週間行った研究では、自由に選択するケイデンスが92rpmから101rpmへ上昇したという報告もあります。

そして、走行環境によってケイデンスが変化するという点では、勾配についても興味深いデータがあります。

②勾配によるケイデンスの差
経験豊富なサイクリストを対象にした研究でも、平地では平均約89rpmだった自由選択ケイデンスが、登坂では約82rpmまで低下しています。つまり一般的には、登りでは自然に選ぶケイデンスが低くなる傾向がある、ということです。

しかし私自身は、登りだからといってケイデンスが大きく低下する傾向はデータでは確認できませんでした。これは普段のトレーニング方法も関係しているのかもしれません。

インターバルトレーニングをするとき、私はできるだけ「この登りで3分走をする」というように、登りだけを高強度区間にすることはあまりありません。平地でも登りでも、場合によっては下り基調でも、必要なパワーを出すようにしています。

理由は単純で、レースではパワーを出さなければならない場所を選べないからです。

実際のレースを考えれば、アタックが平地で起こることもあれば、下りからの立ち上がりで一気に加速することもあります。登りの途中でさらに踏み直さなければならないこともあります。そのため、できるだけさまざまな状況下で、必要なパワーを出せるように練習しています。

その影響なのかどうかは分かりませんが、私の場合は登りに入ったからといって、急にケイデンスが落ち、重いギアを低回転で踏み込む形にはなりにくく、登りでも、そのときの出力に応じて普段と比較的近いケイデンスを選ぶ傾向があります。

つまり現在の私の場合、「室内だから」「登りだから」と走る環境だけでケイデンスが決まっているというよりも、そのとき必要なパワーに応じてケイデンスが変化しているようです。

もちろん勾配やギア比、路面状況、疲労などによってケイデンスが変化することはあります。しかし少なくとも私自身のデータを見る限り、「室内なら低ケイデンス」「登りなら低ケイデンス」という傾向があるわけでもないということでした。



▶ケイデンスを先に決める必要があるのか?

そして、ここが今回一番考えたかった部分です。そもそもケイデンスを先に決める必要があるか、ということです。

以前は私自身も、「90rpmぐらいを維持しよう」「ケイデンスを落とさないようにしよう」と考えていた時期があったと思います。
というのも、当時の教科書的な書籍やトレーニング情報では「ケイデンスは90rpm前後」という記載をよく目にしており、それがある意味、刷り込みのように頭に入っていた部分もあったのかもしれません。

しかし現在は、パワートレーニングが中心です。例えばインターバルなら、300Wを維持する、350Wで3分走る、500Wで30秒踏む。まず目標となるパワーがあります。

そして、そのパワーを何度も何度も出しているうちに、「このぐらいのパワーなら、このぐらいのケイデンスが出しやすい」というところへ自然と収束してきます。ですので現在の私の場合、ケイデンスを合わせてパワーを出すのではなく、必要なパワーを出した結果としてケイデンスが決まる。こちらの方が感覚としては近いです。

そしてレースになると、さらに少し話が変わります。トレーニングでは「今日は300Wで走る」というようにパワーを目標にできますが、レースでは本来パワーそのものが目的ではなく、その場面で必要な速度や加速を得るための手段になります。

前の選手についていくために加速する。アタックへ反応する。コーナーから立ち上がる。ゴールスプリントで速度を上げる。まず必要なのは、その場面に応じた速度や加速です。そのために必要なパワーを出し、そのとき実際に出したパワーが結果としてデータに残ります。

つまり感覚的には、「必要な速度・加速がある → そのために必要なパワーを出す → そのパワーを出しやすいギアとケイデンスを使う」という順番に近いと思います。

ですのでアタックするときに、「今から110rpmまで上げよう」と考えているわけではありません。前についていくために加速しようとした結果、600Wを出していて、そのパワーを出しやすいギアを使った結果としてケイデンスも110rpm付近になっている。少なくとも私自身の感覚では、こちらの方が実際のレースに近いと思います。



▶適正ケイデンスの見つけ方

では、自分にとって使いやすいケイデンスはどうやって見つければよいのか。ここも大切なところです。

私自身の経験から考えると、最初から「90rpmが正解」と決める必要はないと思います。ただし、ここで一つ重要なのが、自分に合ったケイデンスを探すためには、そもそもいろいろなケイデンスを使えることも必要になるということです。

例えば100rpmを超えるとペダリングが大きく乱れてしまう人が、普段80rpmを自然に選んでいたとしても、それが本当に80rpmが適しているからなのか、単に高いケイデンスをうまく使えないからなのかは分かりません。

そう考えると、高ケイデンスドリルや低ケイデンスでのトレーニングにも意味がないわけではありません。特定のケイデンスを正解として身につけるためではなく、自分が使えるケイデンスの幅を広げるための練習と考えると分かりやすいと思います。

つまり、「使えないから使わない」のではなく、「使うことはできるけれど、その強度や状況では使わない」「実際に試した結果、そのケイデンスは自分には合わなかった」という状態の方が、自分に合ったケイデンスを選べていると言えるのではないでしょうか。

特に高いパワーになるほど、高いケイデンスを使う場面も増えやすくなります。そのため、ある程度高いケイデンスまで問題なく使えるようにしておくことは、選択肢を増やすという意味でも無駄にはならないと思います。

そのうえで、例えばSSTならSST、FTP付近ならFTP付近、VO₂maxならVO₂maxと、同じような強度のトレーニングを何度も繰り返してみます。その際は必要以上にケイデンスを固定せず、自然にパワーを出してみる。
すると次第に、「この強度なら90~95rpmぐらいが使いやすい」「このぐらいの高出力になると100rpm以上の方が出しやすい」といった、自分なりの傾向が見えてくると思います。

そしてもう一つ大切なのが、何を目的にロードバイクに乗っているのかによっても、適正ケイデンスは変わるということです。

例えばレースには出ず、サイクリングを楽しむことが目的なのであれば、無理に高いパワーを出したり、高いケイデンスを維持したりする必要はありません。それよりも、長い時間走っても心拍や呼吸が過度に上がらず、脚への負担も少なく、気持ちよく走り続けられるケイデンスの方が、その人にとっては適しているはずです。

一方でレースで速く走りたいのであれば、状況に応じてさまざまなパワーを出す必要があります。そのためには、ある程度広いケイデンスを使えることも一つの武器になります。こちらは言ってみれば「パワーを出すためのケイデンス」です。

結局のところ、「何rpmが適正か」だけを考えるのではなく、自分が何を目的に走っているのか、その目的のためにどのケイデンスが使いやすいのかを、実際にいろいろ試しながら探していくことが大切なのだと思います。



▶まとめ

ここまで適正ケイデンスについて考えてきましたが、正直なところ、私自身は高ケイデンスドリルのような「ケイデンスを上げるための練習」を積極的に行ってきた記憶はほとんどありません。

では、なぜ現在は高いパワーになるほど自然にケイデンスも上がるようになったのか。これはまさに「卵が先か鶏が先か」という話なのかもしれません。

私自身は、速く走るためにはどうすればよいのか、の答えとしてパワーを出す練習をしています。そして、どうすればその高いパワーを維持できるのかを、実走の中でいろいろ試してきました。その結果として、現在のケイデンスがあります。そしてもちろん、これが今後もずっと変わらないとも思っていません。

もしかすると、高いパワーを出し、それを維持する練習そのものが、結果としてそのパワーに必要なケイデンスを身につける練習にもなっていたのかもしれません。これは単純な体力だけではなく、実際にロードバイクを走らせるスキルの一つとも考えられそうです。

ですので、低強度で走るときに「ケイデンスの練習だから」と無理に高い回転数を維持する必要があるのかというと、私は少し疑問があります。低強度であれば、無理に回転数を上げるよりも、呼吸や脚への負担が小さく、その強度を楽に維持できるケイデンスを探す方が実践的なのかもしれません。

逆に高強度であれば、単純に「100rpmで回す」と決めるより、3本、5本と本数を重ねたときに、どうすれば高いパワーを維持できるのか。さらに実走であれば、どうすれば高い速度を出し、それを維持できるのか。その中でギア比やケイデンスを試していく方が、実戦的な適正ケイデンスを見つけやすいように思います。

そして、現在でも「適正ケイデンスは○rpm」と一つの正解が決まっていないのは、やはり個人差が大きく、さらに同じ人でも強度や走行条件によって変わるからなのでしょう。

ただし、極端に高いケイデンスではペダリングできない、反対に低いケイデンスしか使えないという場合は話が別です。使えるケイデンスの幅そのものが狭ければ、選択肢を広げるためのケイデンストレーニングには意味があると思います。

結局のところ、適正ケイデンスとは最初から決められた数字に身体を合わせるものではなく、さまざまな強度や状況で走りながら、そのとき必要なパワーや速度を最も出しやすく、維持しやすい回転数を見つけていくものなのかもしれません。



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