つい先日、新しいDURA-ACEペダル、PD-R9300と新しいSPD-SLRシステムが発表されました。
その中でも大きな進化の一つであり、私が一番気になっているのが、スタックハイトの低減です。
※スタックハイト=ペダル軸からシューズ底までの高さ。低いほど足がペダル軸に近づきます。
SHIMANOによれば、新しいSPD-SLRではペダルとクリートを含めたシステムを再設計することで、従来よりスタックハイトを2.3mm低減。足をペダル軸へ近づけることで、安定性やパワー伝達、ペダリングフィールの向上を狙っています。
※スタックハイト=ペダル軸からシューズ底までの高さ。低いほど足がペダル軸に近づきます。
SHIMANOによれば、新しいSPD-SLRではペダルとクリートを含めたシステムを再設計することで、従来よりスタックハイトを2.3mm低減。足をペダル軸へ近づけることで、安定性やパワー伝達、ペダリングフィールの向上を狙っています。
しかしその差は2.3mmです。
たった2mm程度の違いを、実際の走行で本当に感じるものなのでしょうか。
たった2mm程度の違いを、実際の走行で本当に感じるものなのでしょうか。
新型PD-R9300のスペックや互換性については、すでに国内外で多くの記事が公開されています。
海外の実走レビューでも、低くなったスタックハイトやペダルとの接続感についてはかなり好意的に評価されています。BikeRadarではスタックの変化を実走ですぐに感じ、ペダルとの接続がよりソリッドになったと評価。一方で、SHIMANOからその変化によって何W向上するといった性能データは示されていないとも指摘しています。
海外の実走レビューでも、低くなったスタックハイトやペダルとの接続感についてはかなり好意的に評価されています。BikeRadarではスタックの変化を実走ですぐに感じ、ペダルとの接続がよりソリッドになったと評価。一方で、SHIMANOからその変化によって何W向上するといった性能データは示されていないとも指摘しています。
ですので今回は、少し違う方向から考えてみます。
前作PD-R9100の登場から約10年。長い年月を経てSHIMANOが新型ペダルでさらに追求してきたのが「低スタック化」です。では、ペダルが約2mm低くなることで、ライダーは実際にどんな違いを感じるのでしょうか。
そこで同じ日に、同じバイク、同じシューズを使い、走行途中でペダルだけを交換しました。約2mmというわずかなスタックハイトの違いを、身体は実際にどう感じるのか。この身を持って体験してまいりました。今回はその結果を詳しく考えてみたいと思います。
▶なぜSHIMANOは新型でさらにスタックハイトを下げたのか
そもそも今回の新型SPD-SLRで興味深いのは、旧作 PD-R9100でも元々かなりスタックハイトが低かったペダルを、さらに低くしてきたことです。
これまでのDURA-ACE PD-R9100も、スタックハイトは14.6mm。今回比較するPD-R550の16.5mmと比べても、すでにかなり低いペダルでした。
それでもSHIMANOは、新しいSPD-SLRでさらに2.3mm低減してきました。
SHIMANOが公式に説明しているのは、足をペダル軸へ近づけることによって、より安定したペダリングプラットフォームを作り、パワー伝達やバイクコントロール性を向上させるというものです。つまりスタックハイトをさらに低くすることで、身体とバイクの接続部分をよりダイレクトなものにする、という考え方なのだと思います。
そして新型で変更されたのは高さだけではありません。クリートとペダルのインターフェースそのものを再設計し、構造が見直されています。
実際、海外レビューでもこの部分はかなり評価されています。Escape Collectiveでは、新型SPD-SLRについて記事タイトルそのものを「It’s about stack」とするほど、スタックハイトを今回の変更の中心として捉えています。
ただ、スペックを見ただけではやはり疑問が残ります。
その差は、わずか2mm程度です。
例えばサドル高を2mm変えても、人によっては気が付かない程度かもしれません。ましてやペダルの高さが2mm違うだけで、ペダリングの感覚は本当にそこまで変わるのでしょうか。
これはスペック表を眺めているだけでは分かりません。そこで実際に、約2mmのスタックハイト差を試してみることにしました。
▶約2mm高いPD-R550で走ってみる

普段使用しているDURA-ACE PD-R9100はもうかれこれ2つ目で、6年以上使用してきております。完全に慣れ親しんだPD-R9100から、今回は比較のため、PD-R550に交換しました。
前述のようにPD-R550のスタックハイトは16.5mm、PD-R9100は14.6mmなので、その差は1.9mm。ペダルの踏面が身体側へ約2mm近づくため、実効的にはサドル高が約2mm低くなったような状態になります。
走り出して最初に感じたのは、やはりこのポジションの変化でした。「あ、ちょっと高さが違うな」という感じはあります。とはいえ約2mmです。厳密に言えば変わったことは分かりますが、特に気になるほどではありません。この程度ならそのまま普通に走れますし、この時点では「まあ、こんなものかな」という印象でした。
そしてもう一つ気が付いたのが、PD-R550のペダル軸です。意外と滑らかでよく回ります。DURA-ACEと比較すればかなり価格の安いペダルですが、回転そのものが明らかに重いわけではありません。「下位グレードでも回転は悪くないな」と、最初はそんなことを考えていました。
ところが、走っているとすぐに何とも言えない違和感が出てきました。
踏んでも、回しても、パワーを変えても、なんとなくすべてがぼやけている。反応が鈍い、という表現が近いかもしれません。
だからといってパワーが出ないわけではありません。パワーメーターを見れば、いつも通り数字は出ています。少し強めに踏めば、それなりのパワーも出せます。
それでも、走るにつれて身体の感覚としては妙に調子が悪い。脚がものすごく疲れているわけでもなく、呼吸が苦しいわけでもありません。それなのに「今日は高強度はやりたくないな」「今日はあまり長く乗りたくないな」と感じます。身体と自転車の間に何か一枚挟まっているような、踏んだ力がどこかぼやけたまま伝わっていくような感覚です。
そして走りながら、ふと思いました。
これ、最近の室内トレーニングで感じていた感覚とかなり似ています。
最近スマートバイクを使用した室内トレーニングで、パワーそのものは出ているのに妙にRPEが高く感じたり、「今日はなんとなく調子が悪い」と感じたりすることがありました。そしてこのスマートバイクに取り付けているペダルも、今回と同じPD-R550です。
数字として見ても、同じようなパワーに対して心拍数が若干高く、それ以上にいつものパワーが妙につらく感じます。普段の実走バイクと比べると全体的に反応が鈍く、なんとなくペダルが重く感じます。
一方で、室内でもスマートトレーナーに普段実走で使用しているSLC5を取り付けた場合には、このような「調子の悪さ」はほとんど感じませんでした。こちらに装着しているのは、いつものDURA-ACE PD-R9100です。
つまり室内では、スマートバイク+PD-R550では違和感があり、SLC5+PD-R9100ではほとんど感じない、という違いがありました。
もちろん、この2つはペダルだけを入れ替えた比較ではありません。ポジションやQファクター、クランク、車体そのものの構造など、さまざまな条件が違います。ですので、スマートバイクで感じていた違和感の原因がすべてPD-R550だった、という話ではありません。
ただ今回、普段の実走バイクであるSLC5にPD-R550を取り付けても、スマートバイクのときと非常によく似た「パワーは出ているのに、なぜか調子が悪い」という感覚が出ました。
ここで初めて、これまでスマートバイク特有のものだと思っていた違和感に、ペダルという接点も想像以上に大きく関係しているのではないか、と考えるようになりました。
▶折り返し地点でDURA-ACEへ交換した
まずクリートをペダルにはめた時点で違います。「あっ、これは違う。確実に違うな」と、走り出す前から感じました。
そして走り出して一踏み、二踏み。やはりまったく違います。別物です。
何十kmも走って比較して、ようやく分かるような違いではありません。本当にすぐに分かる違いでした。
一番強く感じたのは、一体感です。
R550ではどうにもぼやけていた足の感覚が、DURA-ACEへ替えるとはっきりします。シューズとペダル、そしてクランクまでが一つにつながったような感覚があります。
次に感じるのが安定感です。
踏んだときに足元が落ち着いていて、とにかく脚を回しやすい。パワーを掛けても「そうそう、これだ」と思えるような安定した感覚があります。
そしてダイレクト感。
脚から入力した力が、そのままクランクへ入っていくように感じます。
不思議なのは、先ほどまで使用していたR550でもパワーそのものは出ていたことです。DURA-ACEへ交換した途端に、パワーメーターの数字が何十Wも上がったということではありません。
数字は出ています。しかし感覚がまったく違います。
R550ではパワーを出していても、どこかくっきりせずに輪郭がぼやけています。それがDURA-ACEへ替えた瞬間、一気にシャープになります。
そして足元が安定することで、不思議なくらい「今日は調子が悪い」という感覚も一気になくなりました。
少なくとも、この日の体調そのものが悪かったわけではなさそうです。
少なくとも、この日の体調そのものが悪かったわけではなさそうです。
この瞬間、前章で感じた「もしかするとペダルが関係しているのでは?」という疑いが、かなり確信に近づきました。
「室内トレーニングで感じている違和感も、もしかするとこういうことなのかもしれない」
と本気で思いました。
パワーが出るか、出ないかだけではありません。ライダーが「踏みやすい」「今日は調子がいい」と感じるためには、身体から自転車までの接続部分がどれだけ安定しているかも、かなり重要なのかと思いました。
正直なところ、ここまで違うとは思っていませんでした。
▶低スタックハイトについて
ここは今回、最も慎重に考えなければならない部分です。
今回、PD-R550よりPD-R9100の方が圧倒的に良く感じた。これは実際に私が感じたことです。
しかし、「その原因のすべてが1.9mmのスタックハイト差である」
と言う話ではありません。
PD-R550とPD-R9100では、スタックハイト以外にも多くの違いがあります。R550はレジンボディで、R9100はカーボンコンポジットボディ。アクスルやベアリング構造、ペダルボディそのものの剛性、クリートを支える部分の構造なども同一ではありません。SHIMANO自身もPD-R9100について、重量と剛性のバランスや、ワイドベアリングによる荷重分散などを特徴として挙げています。
また今回は、ペダル交換に合わせてサドル高を補正していません。R550ではスタックハイトが約2mm高くなるため、実効的なサドル高もその分低くなります。そのポジション変化が今回の体感に多少影響している可能性もあります。今回はあくまでも、ペダルをそのまま交換したときに何を感じるのか、という比較です。
また今回は、ペダル交換に合わせてサドル高を補正していません。R550ではスタックハイトが約2mm高くなるため、実効的なサドル高もその分低くなります。そのポジション変化が今回の体感に多少影響している可能性もあります。今回はあくまでも、ペダルをそのまま交換したときに何を感じるのか、という比較です。
したがって今回感じた一体感やダイレクト感は、スタックハイトだけではなく、ペダル全体の剛性やクリートとの接触、アクスル周辺の構造などを含めた総合的な違いと考えるのが妥当だと思います。
ただ、それでも約2mmというスタックハイトの違いも無関係だとも思えません。
ペダルは身体からの入力を直接受け止め、クランクへ伝える場所です。そしてペダリング中、足とペダルはまったく動かないわけではありません。
ここで単純な幾何学として考えてみます。
同じ角度だけ回転した場合、回転中心から遠い位置ほど移動する距離は長くなります。逆に回転中心へ近づけば、同じ角度変化でも移動量は小さくなります。
上側を低スタック、下側を高スタックとして模式化しています。仮に足とペダルが同じ角度だけ動いたとしても、ペダル軸から足までの距離が長い方が、足側ではより大きな移動として現れます。
もちろん実際のペダリングは、この図のような単純な一方向の回転だけではありません。シューズ、クリート、ペダルボディにはそれぞれわずかな変形や動きがあり、足首自体も動きます。
ですので、「2mm低ければ必ずこれだけ安定する」といった単純な話ではありません。
また、この影響の感じ方はライダーによっても違うと考えられます。ペダリング中の足首や足元の角度変化が大きければ、スタックハイトによる移動量の差も感じやすくなる可能性があります。一方で、足元の動きが小さく安定している人では、2mm程度の違いをほとんど感じない可能性もあります。
また、この影響の感じ方はライダーによっても違うと考えられます。ペダリング中の足首や足元の角度変化が大きければ、スタックハイトによる移動量の差も感じやすくなる可能性があります。一方で、足元の動きが小さく安定している人では、2mm程度の違いをほとんど感じない可能性もあります。
ただ、足をペダル軸へ近づけることで、同じ角度変化に対する足側の移動量を小さくできる方向に働くこと自体は理解できます。SHIMANOが低スタック化によって安定性やペダリングフィールが向上すると説明しているのも、こうした考え方と矛盾しません。
そして今回の実走を振り返ると、もう一つ気になることがあります。
最初にPD-R550で走ったとき、私は「このペダル、意外とよく回るな」と感じました。下位グレードとはいえ、ペダル軸の回転そのものが悪いとは感じませんでした。
しかしDURA-ACEへ交換した後で考えてみると、あの「よく回る」という感覚は、本当にベアリングの回転だけだったのだろうか?とも思います。
もしかするとR550では足元の安定感が低く、普段より足首やシューズの角度変化が大きくなっていたのかもしれません。そうだとすれば、ペダルボディも軸を中心により大きく回転します。最初に感じた「よく回る」という感覚にも、こうした足元の動きが影響していた可能性があります。
もちろん今回は足首の角度やペダルの回転量を計測していないため、これはあくまでも推測です。
それでもDURA-ACEへ戻した瞬間に感じたのは、「よく回る」というよりも足元が安定している感覚でした。パワーを掛けても回転数を上げても、足とペダル、そしてクランクまでが一つにつながっているように感じます。
少なくとも今回の比較では、ペダル軸が軽く回るかどうか以上に、荷重を掛けた状態で足元がどれだけ安定しているかの方が、はるかに大きな違いとして感じられました。
そしてこれは、新型SPD-SLRを見るとさらに興味深くなります。
今回SHIMANOは単に新しいペダルを作ったのではなく、新しいSPD-SLRクリートとペダルのインターフェースそのものを再設計しました。新しい低スタッククリートを含め、システム全体として従来より2.3mm足をペダル軸へ近づけています。
さらにPD-R9300では、一体型ステンレス製コンタクトプレートによってインターフェース剛性を高め、アクスル部にはワイドベアリングを採用して荷重をより均等に分散しています。SHIMANOはPD-R8200比で剛性を11%向上させたとしています。
つまり今回の新型でSHIMANOが狙っているのは、単純に、
スタックハイトを2.3mm低くしました、ということだけではなく、足元をペダル軸へ近づける。クリートとペダルの不要な動きを減らす。そしてペダルそのものの支持剛性も高める。
スタックハイトを2.3mm低くしました、ということだけではなく、足元をペダル軸へ近づける。クリートとペダルの不要な動きを減らす。そしてペダルそのものの支持剛性も高める。
その結果として、足からクランクまでをより安定させることができる。
今回PD-R550からPD-R9100へ交換したときに私が強く感じた「安定感」「一体感」「ダイレクト感」というのも、まさにこの方向の違いだったのではないかと思います。
▶まとめ:ペダルの差は想像以上に大きかった
今回、新型ペダルのスタックハイトについて考えるにあたって、スタックハイトの差が明確なPD-R550とDURA-ACE PD-R9100を実走中に交換して比較してみました。
あくまでも主観的な比較ではありますが、想像していた以上の違いがありました。
もちろん今回感じた差のすべてが、約2mmのスタックハイトだけによるものだとは考えていません。それでも、ペダルを交換しただけでここまで感覚が変わったことには驚きました。
もちろん今回感じた差のすべてが、約2mmのスタックハイトだけによるものだとは考えていません。それでも、ペダルを交換しただけでここまで感覚が変わったことには驚きました。
今回実際に比較してみて、はっきり感じたことがあります。
ペダルは、私が思っていた以上に重要な部品だということです。
仮にパワーには大きな違いが表れなくても、実際に身体が感じる「踏みやすさ」や「調子の良し悪し」には、これほど大きな差が出る。今回の比較で一番驚いたのはこの部分でした。
そしてペダルは、性能だけでなく耐久性も非常に重要な部品です。
私は仕事柄、さまざまなペダルを見る機会がありますが、製品によっては比較的早い段階でペダル軸にガタが出てしまうものもあります。その一方でSHIMANOのSPD-SLペダルは、適切に使われているものでは非常に長期間使用されている例も珍しくありません。
今回あらためてペダルという部品の重要性を強く感じましたが、こうした長期的な耐久性まで含めて考えると、SHIMANOが長年ロードペダルで支持されてきた理由の一つも見えてくる気がします。
そして今回、新しいSPD-SLRでSHIMANOが約10年ぶりにDURA-ACEのロードペダルを大きく刷新してきました。
個人的にSHIMANOらしいと感じたのは、「○W速くなる」といった分かりやすい数字を前面に出していないことです。今回自分が感じたように、ペダルの違いは必ずしもパワーメーターの数字だけで表せるものではないのかもしれません。
むしろ安定感、一体感、ダイレクト感といった、ライダーと自転車とのフィーリングを重視する。そこに新しいSPD-SLRの面白さがあるように思います。
だからこそ、余計に気になります。
今回、約2mmのスタックハイト差がある2つのペダルでこれほど大きな違いを感じた私が、新型PD-R9300を使ったらどう感じるのか。
さらに低くなったことを感じるのか。
それとも現在のDURA-ACE PD-R9100ですでに十分なのか。
あるいはスタックハイト以上に、新しくなったクリートとペダルの接続部分に違いを感じるのか。
これはもう……実際に試して確かめてみるしかなさそうです。
ちなみに新型PD-R9300で唯一気になっているのが、クリートをこれまで通り希望する位置まで出せるかどうかです。RC903なのでおそらく大丈夫だと思いますが、こればかりは実際に取り付けてみないと分かりません。届き次第、確認してみたいと思います。
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