ロードバイクのトレーニングには、大きく分けて実際に外を走る実走と、ローラー台などを使用した室内トレーニングがあります。
最近ではスマートトレーナーやスマートバイクもかなり普及し、Zwiftなどを使えば、外へ出なくてもかなり本格的なトレーニングができるようになりました。天候に左右されず、信号もなく、決められた時間、決められた強度でトレーニングができる。室内トレーニングには非常に大きなメリットがあります。
しかし、実際のロードバイクで速く走れるようになることを目的とした場合、室内トレーニングだけでよいのかと言えば、必ずしもそうではないと考えています。では、実走で速くなるためには、室内トレーニングをどのように使えばよいのでしょうか。
今回はZwiftレースで強くなることを目的とした話ではなく、あくまでも 「外を走るロードバイクで速くなる」ことを目的とした室内トレーニングについてです。実走と室内トレーニングにはどのような違いがあるのか、そして室内トレーニングをどのように取り入れればよいのかを考えてみたいと思います。
▶ 実走派になった理由
まず私自身の話ですが、現在は基本的にほぼ実走でトレーニングを行っています。
さすがに積雪や寒い時期の土砂降りでは厳しいですが、それでも寒くない時期であれば、多少の雨でも外を走ることが多々あります。もちろんロングライドだけではなく、ある程度の時間をかけて行うSSTや、短時間高強度のインターバルトレーニングも、走る環境を選びながら実走で行っています。
では、なぜ室内より実走を選ぶようになったのか、というところからです。
数年前、室内トレーニングを中心に行っていた頃がありました。室内トレーニングではZwiftを使用し、それまで少々飽きやすかったローラー台でのトレーニングも大きく変わりました。かなり長い時間でも、以前より集中して効率よくトレーニングできていたと思います。
当時は外を走っても週に1回程度で、ひどい時には3週間に一度ぐらいしか実走していなかった時期もありました。現在の私のライド記録と比べると、自分でも信じられないぐらい実走の割合が少なかったと思います。
それでも、室内トレーニングをコツコツ続けることで、劇的に速くなることはありませんでしたが、じわりじわりとその効果は数字にも表れてきていました。
ところが、数週間ぶりに外を走ってみると、室内で伸びていた数字が、そのまま実走での走りにつながっているわけではないように感じることが多く、思っていたようにはいかないことも少なくありませんでした
▶ 偏った室内トレーニングで感じたこと
まず、同じようにパワーを出そうとすればパワーは出ます。
しかし、何かがおかしいのです。
思っていたよりも早く身体が疲れてしまう。さらに走り終わったあとも、ローラー台で同じような時間、同じような負荷をかけたときより疲労が強く残ったり、翌日になっても疲れが抜けにくかったりすることがありました。強い疲労感だけではなく、身体に痛みを感じることもあり、実走の翌日以降はトレーニングの強度が上がらない、あるいは上げられないと感じることも多々ありました。
こういった経験を繰り返す中で、私自身は室内と実走では、単純なパワーの数値だけでは表せない違う種類の負荷がかかっているのかもしれない、と感じるようになりました。
少し感覚的な表現になりますが、室内トレーニングは、良くも悪くも「上品」です。
一定の場所で、一定の負荷を、非常にきれいな形で身体へ与えることができます。Zwiftを行っていれば、もちろんコースによって負荷の変化も生まれます。勾配が変われば負荷も変化し、突然重くなったり軽くなったりします。
しかし、それでも実際の道路とは違います。バーチャル上では、自分が道路の内側を走った、外側を走ったというだけで勾配が微妙に変化することはありませんし、路面の荒れ具合によって突然ペダリングが乱されることもありません。当然ながら実際の風を受けることもなければ、濡れた路面や砂利などによってタイヤが滑ることもありません。
それに対して実走は、もっと荒々しいものだと感じました。
たとえ信号が一つもない道路を走っていたとしても、完全に同じ負荷で走り続けることはほとんどありません。わずかな勾配の変化、風向き、路面状況、コーナーなどによってパワーは絶えず上下します。
さらに実走では、ほぼ常に路面から細かな振動や衝撃を受け続けています。その中で自転車を支え、姿勢を維持し、状況に合わせて身体を動かさなければなりません。
こうした負荷は、パワーメーターに表示される「○○W」という数字だけでは見えてきません。
この経験から、実走で速くなりたいのであれば、室内でパワーを伸ばすだけではなく、やはり実際に外を走ることも重要なのではないか。そう考えるようになり、現在では実走を中心にトレーニングするようになりました。
▶ それでも感じる室内トレーニングのメリット
それでも今年は、少々勝手が違います。
先月の千葉豪雨、9月には台風25号の影響、さらに8月後半から雨雨雨、、、もう雨ばかりの空模様です。
私が住む千葉は、ロードバイクで走る環境としては山こそ少ないものの、非常に恵まれた地域だと感じています。印旛沼周辺や、市原からさらに南側へ向かえば、交通量が少なく走りやすい道路も多くあります。
しかし今年は、自然災害の爪痕がいまだ色濃く残っています。実際に走ってみると、報道で見聞きする以上に被害が広いことを実感させられます。
当然、普段トレーニングに使っていた道路の中にも、走れなくなってしまった場所や、避けたほうがよい場所も少なくはありません。
それでも天気が持ちそうな時間を狙って外へ走りに行くのですが、走れば泥だらけ。そして帰宅後は、もれなく洗車までがセットです。
そんなこともあり、最近では少しずつ室内でのトレーニングも行うようにしています。
室内トレーニングの大きなメリットは、何と言ってもやはり時間効率の良さです。
外を走る場合は、狙ったトレーニングに合わせて走りやすい場所まで移動しなければなりませんし、道中は信号で止まったり、交通状況によって予定していた強度で走れなかったりします。
外を走る場合は、狙ったトレーニングに合わせて走りやすい場所まで移動しなければなりませんし、道中は信号で止まったり、交通状況によって予定していた強度で走れなかったりします。
さらに、トレーニングを終えた時点で疲労が溜まっていたとしても、外を走っている以上は自宅まで帰らなければなりません。
その点、室内であればスタートした瞬間からトレーニングです。20分走なら20分、SSTならSST、VO₂maxインターバルなら決めた時間とパワー、一切の邪魔が入ることなく正確に行うことができます。
無理をして外へ走りに行くくらいなら、その日は室内でトレーニングを行う。最近はそんな使い方をするようになりました。
そして久しぶりに室内トレーニングを続けてみると、改めて室内ならではの良さと、実走との違いを感じることになりました。
同じようなパワーを出していても室内のほうが妙に苦しく感じることがありますし、反対に実走では同じパワーを比較的自然に出せることもあります。また室内ではきれいに一定出力を維持できる一方で、外へ出るとそれほど単純にはいきません。
では、私が感じているこの違いは、単なる感覚によるものなのでしょうか。
室内トレーニングと実走の違いについては、いくつかの研究も行われています。
▶ 室内と実走は科学的にも同じではない
① 同じ平均パワーでも、出力の変化は違う
室内と実走を比較した研究では、興味深い結果が報告されています。例えば競技サイクリスト20人に20分間のタイムトライアルを行わせた研究では、平均パワーは室内280W、屋外284Wで、大きな違いはありませんでした。ところが、パワーがどの程度上下していたのかを見ると、大きな違いがありました。
出力のばらつきを示す標準偏差(SD)は、室内33Wに対して屋外では69W。つまり平均パワーそのものはほぼ同じでも、屋外では室内よりもかなり大きくパワーが上下しながら走っていたということです。実際の道路では、わずかな勾配の変化や風、路面状況、コーナーなどによって、ペダルへかかる負荷は絶えず変化します。
つまり「平均280W前後」という数字だけを見れば同じような運動に見えても、実際には屋外のほうがパワーの上下が大きく、その出力の作られ方には明確な違いがありました。
ただし、これは「屋外のほうが必ず身体への負荷が大きい」と証明した研究ではありません。平均パワーが同じ程度であっても、室内と屋外ではパワーの変動の仕方が違うという結果です。
また別の研究では、UCI ContinentalやWorldTourレベルの男性選手14人を対象に、室内と屋外のそれぞれで、60秒・180秒・300秒・840秒の最大平均パワーを測定するテストが行われています。
つまり通常のトレーニング強度で走ったのではなく、それぞれの時間で可能な限り高い平均パワーを出す、最大パフォーマンステストです。
その結果、60秒、180秒、300秒、840秒のすべてで、屋外の最大平均パワーが室内より高くなりました。また、複数のテスト結果から算出したCritical Powerについても、屋外のほうが19W高い結果となっています。
さらに興味深いのは、室内と屋外でどの程度パワーが変わるのかには、かなり大きな個人差があったことです。研究者も、この結果から室内と屋外で行った最大パフォーマンステストを、そのまま同じものとして扱うことは難しいとしています。
一方で、先ほどの20分TTの研究のように、平均パワーそのものにはほとんど違いが出なかった研究もあります。ですので、「室内では必ず○%パワーが落ちる」「実走なら必ず○W高くなる」と単純化することはできません。人によって差の出方は違いますし、使用するローラー台や冷却環境、走行条件などによっても結果は変わります。
ただし少なくとも、 室内と実走では身体を取り巻く環境やパワーの出方に違いがあり、「同じ300Wなら、まったく同じトレーニング」と単純には考えられない ということです。
② 室内では冷却条件も大きく違う
そして室内トレーニングを考えるうえで、もう一つ無視できないのが冷却です。外を走れば、速度に応じて身体には走行風が当たります。しかし室内では自転車そのものは動きません。そのため、扇風機や大型ファンなどを使用しなければ、身体から発生した熱を逃がしにくくなります。
実際、約4m/sのファンを使用した室内サイクリングの研究では、同じ程度の心拍数で走った場合、ファンで身体を冷やしていたほうが約15%高い出力で走ることができました。
つまり、室内では身体をしっかり冷やせるかどうかで、同じ心拍数でも出せるパワーが変わる可能性があるということです。
また、屋外と室内で同じ主観的運動強度になるよう40kmを走った研究では、屋外208Wに対して室内163Wとなり、屋外では皮膚温も低くなっています。もちろん、この45W近い差をそのまますべての人へ当てはめることはできません。研究条件も限られていますし、ファンの強さや室温、湿度などによっても変わります。
ただし、冷却を含めた環境の違いによって、同じ「きつさ」で出せるパワーが変わる可能性は十分にあります。つまり、 室内で思ったようにパワーが出ないからといって、「脚が弱くなった」「FTPが下がった」とすぐに判断するのは早い ということです。

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③ パワーメーターには表示されない「実走の負荷」
ここまでの研究からも、室内と実走では出力の変動や冷却環境、最大パフォーマンスの出方などに違いがあることが分かります。
そして私自身が実走と室内で最も違うと感じているのが、 こうした研究で数値として確認できるもの以外にも、実走ではさまざまな負荷を受け続けている ということです。
実走では風向きが変わり、路面勾配も微妙に変化します。コーナーへ入れば減速し、そこから再び加速する。さらに路面から細かな振動や衝撃を受け、自転車が動けば身体で支え、路面状況に合わせて無意識のうちにも姿勢を変え続けています。
こうした負荷は、平均パワーやNPを見ただけでは分かりません。 もちろん、路面からの振動や車体を安定させるための動きが、どの程度疲労を増加させているのかを今回紹介した研究だけで説明することはできません。
ただ、私自身が長く室内と実走の両方を行ってきた感覚では、やはり 「室内は良くも悪くも上品で、実走はもっと荒々しい」 という違いがあります。
室内では狙った負荷を非常にきれいな形で身体へ与えることができます。一方で実走では、そのパワーを出しながら、細かな負荷変化や振動、姿勢変化などにも対応し続けなければなりません。
私自身、室内トレーニングを中心に続けたあと、久しぶりに外へ出ると、パワーそのものは出せるのに身体が思った以上に早く疲れたり、走行後の疲労が強く残った経験があります。これはあくまでも私自身の経験であり、 その原因を一つに特定することはできません。
しかし研究でも、室内と実走では実際にいくつもの違いが確認されています。そう考えると、 「同じ300Wなら身体にかかる負荷もすべて同じ」と考えるのではなく、それぞれ異なる特徴を持ったトレーニング環境として考えたほうがよい と思います。
▶ では、実走で速くなるために室内トレーニングをどう使う?
ここまで書くと、「それなら室内トレーニングはやらないほうがいいのでは?」と思うかもしれません。私はそうは思いません。むしろ室内トレーニングには、実走にはない大きなメリットがあります。
大切なのは、室内トレーニングを実走の完全な代用品だと考えるのではなく、 「実走で速くなるために、室内で何を鍛えるのか」 を考えて使うことだと思います。
・室内だからこそできるトレーニングを利用する
まず、実走とまったく同じパワーを室内でも出そうとする必要はないと思います。
先ほど紹介した研究でも、室内と屋外で出せるパワーに差が生じた例があり、その差には大きな個人差もありました。また、室内では冷却環境によっても出せるパワーが変わる可能性があります。
例えば実走では300Wで行えているトレーニングが、室内では同じ300Wだと明らかにきつい。そんな場合に、「実走では300Wだから」と数字だけを合わせる必要はありません。
大切なのは実走と同じ数字を出すことではなく、そのトレーニングで狙っている負荷を適切に身体へ入れることです。室内では室内での心拍やきつさ、継続できる時間なども見ながら、その日の適切な強度を考えたほうがよいと思います。
そして室内には、実走にはない大きなメリットがあります。SSTなら狙った強度をきっちり一定時間続ける。VO₂maxインターバルなら、決められた時間と本数を正確に行う。外では信号や交通状況、道路の勾配などによって難しいトレーニングでも、室内であれば邪魔されることなく行えます。
実走と同じパワーを追いかけるのではなく、室内だからこそ狙った負荷を正確に入れる。 せっかく室内で行うのであれば、この長所を積極的に利用したほうがよいと思います。
・実走に近いポジションで行う
一方で、実走で使う身体を鍛えるのであれば、ポジションだけではなく、普段の実走でどのように走っているのかも意識したほうがよいと思います。サドル高やサドル後退量、クランク長、ペダル、クリート位置、ハンドルまでの距離など、実走時のポジションやペダリングに関わる部分は、できる範囲で普段の実走車へ近づける方が良いと思います。
必ずしも実際にレースで使用する自転車そのものをローラー台へ取り付ける必要はありません。室内専用バイクでも構わないと思います。ただし、毎週何時間、何か月と繰り返しトレーニングするのであれば、実走時とは大きく違う姿勢やペダリングを長時間繰り返すよりも、普段外で走っている状態に近づけておいたほうが、実走へのつながりは作りやすいと考えています。
そして、もう一つ意識したいのがケイデンスです。私自身、室内トレーニングを中心に行っていた頃は、現在の実走と比べてかなり低いケイデンスで走っていました。室内では負荷が安定しているため、気がつくと自分にとって楽なケイデンスへ寄ってしまうこともあります。
実走で速くなることが目的なのであれば、室内だからといって特別な回し方をするのではなく、普段の実走で使っているケイデンスやペダリングも意識しておく。ポジションだけではなく、「どう踏んでいるか」まで実走とかけ離れないようにすることも大切だと思います。
・冷却はしっかり行う
室内で大量に汗をかいたからといって、それだけでトレーニング効果が高くなるわけではありません。暑熱順化などを狙った特殊なトレーニングでなければ、しっかりとファンを使い、 発生した熱をできるだけ逃がせる環境を作ることも重要です。
冷却が不足すれば、狙っていた心肺や筋肉への負荷よりも先に、暑さによってパフォーマンスが落ちてしまう可能性があります。 実走で速くなるためにSSTやVO₂maxを行っているのであれば、目的は「たくさん汗をかくこと」ではなく、「狙った強度を適切にこなすこと」です。 そのためにも、室内では冷却環境をしっかり整えたほうがよいと思います。
・そして室内だけで完結させない
そして、実走で速くなることが目的なのであれば、私はここが一番重要だと思っています。
もちろん室内でも、 有酸素能力を高めるための刺激を入れたり、筋持久力を向上させたりすることは十分にできます。
しかし、そこで身につけた能力を使って実際の道路を速く走るためには、実走でしか身につけにくい部分もあります。
・路面からの振動や衝撃を受けながら長時間走り続けること
・細かなパワー変動に対応し続けること
・勾配の変化に合わせて、ギアやケイデンス、パワーを調整すること
・目には見えない風による、細かな負荷変動に対応し続けること
・コーナーから再び踏み直すこと
・疲れた状態でも自転車を正確に扱うこと
集団走行であれば、さらに位置取りや速度変化への反応なども必要になります。
室内で作ったパワーや持久力を、そのままゴールだと考えない。そこで作った能力を、実際に外を走りながら「実走で使える能力」へつなげていく。
私は、ここまで行って初めて、室内トレーニングで伸ばした能力が、 実際のロードバイクの速さへ結びついてくる のではないかと思っています。
▶まとめ
実走と室内トレーニング、どちらが優れた練習なのかという話ではありません。
しかし、現在のように気象状況がきわめて不安定で、思うように外を走れない日が続くこともあります。そんな状況で、 「できないからやらない」で終わらせるのではなく、その時にできることを淡々と積み上げていく。 これは有酸素能力を高めていくうえでも、とても大切なことだと思います。
もちろん、何が何でもトレーニングをする、無理をしてでも続ける、という意味ではありません。
ただ、 自分を取り巻く環境や状況は、いつも同じとは限りません。 天候が悪い、走れる場所がない、時間がない。そういった条件は、その時々で変わっていきます。
だからこそ、不利な状況に文句を言うだけではなく、 不利なら不利なりに、不便なら不便なりに、今できることを見極めて続けていく。
実走できる日は実走する。外を走れない日は室内を使う。疲労が強ければ休む。
その時の状況に合わせて、できることを選びながら継続していくこと。
結局、速くなるために一番大切なのは、特別な一回のトレーニングではなく、 こうした積み重ねを長く続けていくことなのかもしれません。
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